少し前になってしまいましたが、
2016/1/25付 日本経済新聞 朝刊の社説2本は、
『道半ばのブラック企業対策』
『企業が厚生年金から逃れるのを許すな』
という中小企業には耳の痛い社説が並んでおりました。
さながら労務問題特集でした。珍しい。
主旨は、
『道半ばのブラック企業対策』
過酷な労働を強いる「ブラック企業」対策の新たな制度が3月から始まる。
法令違反を繰り返す企業からの新卒者の求人はハローワークが受理を拒否できるようにする。
ブラック企業の排除に自衛(学生)と取り締まり(労基署)の両面に力を入れたい。『企業が厚生年金から逃れるのを許すな』
会社員のための公的年金である厚生年金に加入すべきなのに、加入していない人が200万人もいる。
中小零細企業が経営難を理由にして加入しないことが珍しくない。
厚生労働省は約79万の事業所が違法に加入していない可能性がある。
ということです。
日経の論旨は正しく、正義です。
私もその通りだと思いますが、視点を少し提供します。
ブラック企業とゾンビ企業の違い
近年、ブラック企業(労務環境が劣悪で社員を酷使する)、
ゾンビ企業(リスケで生き長らえているだけでビジネスモデルに持続可能性がない)
が並列されたり、混同されたりすることが多いです。
ゾンビ企業がブラック化する可能性が高いと論じられますが、
ゾンビ企業は冷酷になれずに不採算に陥っていることが多く、
労働者を意図して搾取することで高収益を得ているブラック企業とは明確に性質が異なります。
その点ご理解頂きたく思っています。
社会保険料負担のしわ寄せが中小企業を直撃
また、社会保険は国の制度でありながら、企業に負担を求めるという問題があります。
年々保険料率も上がります。
その為、加入者の範囲を広げ将来にわたり安定的な保険制度を維持しようとする意図が当然あります。
しかし、国の負担をしわ寄せできるほどに中小企業に余力があるのでしょうか。
中小企業の法定福利費負担は、だいたい給与支給額の14%程度です。
業種にもよりますが、給与が売上構成比の30%の会社だと、
法定福利費は4.2%程度、売上の35%も人件費が占めるというのは大変なことです。
他にも
広告費10%
家賃10%
水光熱費5%
ともろもろ積み上げていくともう大変。
企業が正常に借入返済を行い、利息を支払うには、
営業利益が15%程度出ていないと中々困難です。
と考えると仕入や製造原価は25%程度でなくてはならないわけですが、
そんなに上手くいっている中小企業はありません。
広告費が0で、設備投資も0だとしても原価35%これも実に厳しい。
社会保険料は税金と違い、赤字でも黒字でも毎月負担があります。
この支払に四苦八苦した上で、年金機構の差押に怯えたり、
結果として差押をされることにより、金融機関より期限の喪失を通告され
倒産の引き金となるケースを沢山見て参りました。
社会保険料を支払う為に銀行をリスケしたり、
銀行へ返済する為に社会保険料を滞納する会社。
前門の虎、後門の狼です。
負担に充分な粗利が出ていない為に、
中小企業は社会保険料を負担できないというのが実態です。
適切な利益を中小企業が得る為に
私はこの問題を厳しく論じるのであれば、
消費税Gメンや下請法違反をきっちり摘発しなくては話になりません。
大企業が空前の好決算の中で、
かくも中小企業が恩恵を受けられない構造になぜなっているのか、
考えて頂きたく思います。
私は左翼ではありませんが、中小企業再生の実務に取り組んで現場を見ていると
本問題を正義の理屈でかたづけるのではなく、構造的な問題として捉えたいと思います。