本記事では前記事に引き続き、鳥倉再生事務所が行う事業再生や、当事務所へ寄せられるご相談の状況について、代表へのインタビューという形でお伝えいたします。
現在のコロナ禍における相談内容の変化や、実際に融資を獲得した事例についてご理解いただき、コロナ禍で生き抜く方法を知っていただければと思います。
コロナ禍での相談内容の変化
――コロナの影響で相談件数は増えたとのことですが、内容として何か変化はありましたか?
従来はリスケジュールといって、「金融機関への返済を止めるにはどうしたらよいか?」というところからのスタートが多かったのですが、コロナ禍においては融資の制度が非常に充実していまして、簡単にいうとリスケジュールより前の段階の「止血」的な意味でのご相談が多いですね。経営においての出血を止めるのか、輸血のご相談なのかで、けっこう大きく意味合いが違ってくるんですね。
詳しく背景をご説明すると、従来の場合は経営が傾いてくるとまず融資を受けるのが困難になりますので、資金調達というのは視野に入らなくなってしまっていたんですね。そのためリスケジュールからスタートすることが多かったのですが、コロナの影響下では特別措置として、赤字の会社でも融資を受けられるという制度があります。すでに信用保証協会の枠がない人でも、簡単に枠を得て融資を受けることができるんです。債務超過の場合もそうですね。屋台骨にヒビが入っているような会社さんでも融資が受けられるという仕組みができています。
わたしは15年以上事業再生に携わっていますが、このような状況はかなり珍しいです。実際、同じようなことがリーマンショックの後に起こり、その時期もかなり融資が受けやすくなっていましたが、今ほどではないです。
――鳥倉再生事務所に相談いただけると、そういった情報の提供を受けながら二人三脚で事業再生に取り組めるのですね。
そうですね。新型コロナウイルスの対応というのは、日ごとに変わっていきます。政府の方針や金融機関の方針もどんどん後付けで充実していくことがありますので、持っている情報が古いと諦める必要のない状況でも諦めてしまうということが起こり得るんですね。
実際、今年の3月くらいまではまだ融資の基準もかなり厳しかったです。なかなか制度を活かして融資を受けることができない企業が多かったのですが、4月以降は信用保証協会の判断の変化もあって、3月まで融資を断られていた企業でも受けられたという事例もあります。
――そういった情報を事業主の方が一人で追っていくのはなかなか難しそうですね。
特に本業が忙しい方の場合は、融資制度や助成金の活用まではなかなか考える余裕がありませんよね。しかしアドバイスを受けるということは選択肢に入るかと思います。
それに対して、少なくとも私どもへの顧問料よりも高い経済的なメリットをもたらさなくては、提供するサービスに意味がありません。例えば顧問料よりも融資を受けられる金額が高いとか、受けられる助成金の金額が高いとか、もしくは業務改善により生まれる収益が高いというのは当然の前提だと思ってサービスを提供しています。
――実際に鳥倉氏ご自身の業務や考え方には変化はございましたか?
先ほどお話ししたように、リスケジュールからのスタートではなくて資金調達からのスタートに変わったということで、特にステークホルダーと言われるような利害関係者との調整がメインの業務になっています。ステークホルダーには当然さまざまなパターンがあり、債権者としての金融機関であったり、あとは株主であったり従業員であったり、また取引先であったりするのですが、調整が資金調達から始まることによって対応も変わるんですね。抑制的にコスト削減をするわけではなくなるんです。
まず金融機関の判断や反応が重要ですね。その会社をどう評価してどうしたいのかということをよく知らなければ再建策が作れない。得られるはずの資金が得られなくなってしまう可能性もあります。
――そういったことはなかなか専門知識がなければわかりませんよね。
難しいかもしれないですね。業績もコロナで悪化していますし、業績が悪化すると債務超過に陥ったり、プライム的な指標が悪化したりもしますので、金融機関との関係性をつなぐのが難しいと諦める企業もあるかと思います。従来においてはそのような判断をするのが普通なのですが、コロナの対応策を考え合わせますと、諦めるべきではないですね。
コロナショックで融資を獲得した事例について
――コロナ禍で実際に融資を獲得した事例について、印象的なものなどはありますか?
面白い事例はありますね。例えば売り上げと同じくらい借り入れがある状況で、さらに借り入れたという……
普通、青色申告といって毎期継続的に申告書を出している企業の方が融資を受けやすいのですが、この企業は白色申告にもかかわらず融資を受けることができたんです。これは珍しい事例として印象的です。
――それはなかなか珍しいですね……。
コロナ禍ではやはり特別な対応策が有効な場合があるのでしょうか。
特別な状況なので、そういったこともありますね。
例えばコロナ関係でいうと、資本性ローンというものがあります。資本金というのは普通、株式によって調達する資金を指します。資本金を積んで会社の内部体質を強化するんですね。
ここで「資本性ローン」とは何かという話なのですが、これは資本金に似たローンということなんですね。資本金とローンというのは本来、全く意味が違います。資本金は基本的に返済義務のない資金です。株主が「あなたの会社にお金を預けるから、一緒にやっていこう」というのが資本なんです。対してローンというのは、「お金を貸すけど返してね」というものです。両者は「返済が必要なもの」と「返済が不要なもの」というところで分かれます。資本性ローンというのは、資本金のような意味合いを持ちながらも、借入金のような意味合いもあるものなんです。
――それはどういった場合にメリットを発揮するものなのでしょうか?
いま日本政策金融公庫で発表しているものについては、5年間、10年間、または20年間と返済不要となっています。この期間中は返済が不要であるという点で、資本性的な意味合いもあるということですね。融資金については、返済不要な期間中は資本金的な意味合いを持ち、期限後は借入金のような意味合いになるんです。
これは特にコロナの影響で基盤に穴が空いた会社……例えば在庫が売れなくなってしまったとか、売り上げ減少が大きすぎて債務超過に陥ってしまったなどという場合に有効です。
一般的に債務超過の会社というのは取引を見送られてしまうことが多いのですが、コロナの影響でそのような状況に陥ってしまった会社がたくさんあります。そこに最大7億円の資本性ローンを注入するという話です。
例えば昨日(8/19)ご相談を受けた企業の場合、最低2〜2.5億は融資を受けたいとのことだったのですが、8月19日にご相談を受けて、資料が整えば8月中に実行できるような状況になっています。今月から始まった制度ですが、14日に第一号の事例が出たそうです。企業に将来性があるものの一次的に基盤に穴が空いたような場合、10〜20年のローンで中小企業の財務のピンチを穴埋めしようということですね。
自民党や政府でも、単にお金を貸していても今回のコロナの危機は乗り越えられないと判断している人が多いです。というのも、4〜6月の間で影響を受けたという一時的なものではなくて、これから中長期で影響を受けそうな状況の企業が多いということがあるからなんですね。思わしくない状況が長くなってしまっていて、「3・4月にお金を貸したけど、今足りてるの?」という話になってくるんです。9月以降に関しては、一度融資をした会社に対してどのように貸すかという議論とともに、この資本性ローンがテーマになってくるでしょう。
――そういった状況は、経営者の方でも知らない人が多いかもしれませんね。
「資本性のあるローン」と言われてもよく分からないかもしれないですよね。それを日本政策金融公庫にわざわざ聞きに行く人も珍しいかもしれません。
実際に公庫の担当者の方とお話をする機会があったのですが、やっぱり聞きにくる人が少ないとのことでしたね。そこの周知は必要かもしれません。
コロナ対応の融資も3年間無利息ですけども、最大3年間返済猶予ということになっています。本来はすぐに返済義務が生まれるところですが、返済開始時期を1年後、2年後、3年後と選べるような形になっています。借金というのは基本的に利益を出して返さなくてはいけないものですが、コロナ禍で利益を出すことが難しい企業が多いためですね。
そういった意味で、普段の貸金と違う苦しみがあるはずです。銀行の借入というのは大きく2つに分かれていて、ひとつは設備購入資金ですね。例えば「生産設備を買って新しい製造能力が生むことで、今までより売り上げと利益が増やすことができるので、お金を返せる」というもの。もうひとつは、「売り上げが増えて資金繰りが回らないので、売り上げが増えた分の運転資金を貸してください」というものですね。これも売上が上がることが前提となっているものですから、返済資金があると見なされるわけです。銀行というのは基本的にこの2パターンの場合にしかお金を貸しません。返してもらう財源があるところにだけお金を貸すんです。
ただ今回のコロナ禍においては、「赤字保険資金」と呼ばれる資金が出るので、「赤字によって減っている資金を穴埋めするために、お金を貸してください」ということができます。ただしその場合、借りたとしても利益が上がらないんですね。しかしながら返済猶予してもらうとして、「1〜3年後には軌道に乗ってお金を返せる」ということを前提に融資を受けなくてはいけません。この場合、このコロナ対応の融資が借りられるかどうかという「入口」の問題ももちろんありますが、「借りた以上は何かしておかなければ、将来的に行き詰まる」という「出口」の問題もあります。そのため、借りた後の猶予期間の最大3年のうちに「新しい事業を立ち上げる」「不採算事業をカットする」「経費を圧縮しておく」などの手を打っておかなければ、返せなくなってしまうんですね。
実は似たようなことが東日本大震災の時にも起こっていました。震災の時も融資がたくさん出て、さまざまな震災復興事業が立ち上がったのですが、そもそも地震がなければ受ける必要がなかった融資ですし、それ以前にすでに多くお金を借りている会社もあったので、これまでにあった借金と新しくできた借金の二重ローン状態になってしまう会社が出てきてしまったことが社会問題になっていました。その時は、二重ローンについてはサービサースキームを使って返済に困ることがないようにという手当が一部では行われていました。
しかし今回のコロナ騒動によって生じる二重ローン問題については、将来的にどう対応されるかというところの議論はまだ何もされていません。
――まだその点は不透明なのですね。いずれにせよ事業者としては、融資を受けた後にどうするかというのもポイントということですね。
ですので、今コロナ資金が出た企業の対応というのは大きく2パターンに分かれていると思っていて、得た資金を活かしてどう会社を立て直すかという考え方と、得た資金をもとにどう会社をたたんでいくかという考え方ですね。
――そのどちらかのパターンにおいて実際にご支援した事例や、その際の具体的な手法などはありますか?
例えば私が支援をした介護事業A社の事例があります。
こちらの会社は過去に本業が苦境に陥り、抜本的な事業構造改革を断行しています。メインの取引先との取引を解消後、新規事業に活路を見いだすべく介護事業に挑戦したんです。1店舗の損益が黒字化して2店舗目を出店、人繰りも安定して、3店舗目を出展した直後にコロナ禍に遭遇しました。前年に新規の店舗を出店したタイミングでもあったため、売上高減少要件を満たせていなかったんです。しかも、売上は前期比で増加しているものの、新規の店舗が損益分岐点を超える売上が確保できず赤字が継続し、資金繰りに困難をきたしていました。
そのような状況の中で、日本政策金融公庫へ新型コロナウイルス感染症特別貸付のための面談を依頼、4月上旬に第1回の面談が行われました。
面談では、当初リリースされた融資条件から要件が緩和され、売上高を前年または前々年と比較して良いとされた結果、「融資対象になる」との見解を得ました。ここで実質無利子上限額の*3,000万円で申し込みましたが、財務内容的に融資が得られること自体がコロナによる特別な扱いとの評価もあったため、3ヶ月の固定費相当額の2,000万円にて融資を申し込みました。
4月末には既存取引金融機関5行に、日本政策金融公庫コロナ禍資金導入についての優先弁済権付与の確認取付のため、調整を行っています。
そして5月中旬には日本政策金融公庫より電話にて、「既存行への確認が終了した」との報告があり、融資金額2,000万円、2年間元金据置以後、13年の約定返済……つまり15年融資という融資方針決定を伝えられました。
そして5月末には融資着金に至ったわけですね。
※後に第二次補正予算成立。6月12日より4,000万円に拡充。
――そのような結果につながったポイントなどはありますか?
この件のポイントとしては、4つあると考えています。
1つ目は、債務超過、赤字、売上を超える借入金額、債務償還年数算出不能でも諦めず、融資申込を行い融資を得ることができたこと。
2つ目は、当初は融資対象要件を満たしていなかったものの、諦めず情報収集を行い、要件緩和の情報を得て即座に申し込んだこと。
3つ目は、融資申込金額の妥当性、返済年限、返済方法についての改善方針を説明できるようにしたこと。
そして4つ目は、既存取引行に対し、経営危機、資金繰り難についてありのままに説明を行い、迅速に国民政策金融公庫の融資を新たに導入することについて同意を得るとともに、日本政策金融公庫の新規借入金について優先弁済権付与の確認を行ったこと。
これらのポイントを押さえて動くことができたからこそ、融資を受けることができたのではないかと思います。
コロナ禍において本業の立て直しに忙しい経営者が、先ほどお話ししたような段取りを考え、整え、融資金を迅速に得ることは困難と言わざるをえません。情報収集のアンテナを常に張り、金融・財務の知識を活かして債権者との調整をしなくては難しいでしょう。
鳥倉ではコロナ禍を生き抜くために、財務戦略を構築したい経営者の皆様からのご相談をお待ちしております。